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医学教育改革関連資料

診療参加型臨床実習の実施のためのガイドライン

京都大学大学院 医学研究科 福井次矢
九州大学大学院 医学研究院 吉田素文

1. はじめに

※ 診療参加型臨床実習の主旨

診療参加型臨床実習の主旨は、学生が診療チームに参加し、その一員として診療業務を分担しながら医師の職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な部分を学ぶことにある。

教育上の主な特徴としては、以下の項目があげられる。

2.診療参加型への移行に伴う体制作りと実習指針作成の意義

従来の見学型、模擬診療型の臨床実習から前述の診療参加型に移行する際には、学生が診療チームに参加し診療業務の補助にあたること、その他、教育上の特徴、危機管理、その他の法的な課題について、各関係者が新たな認識のもとに共通理解を得ておく必要がある。

以上の観点から、診療参加型臨床実習への移行を支援する目的で、各大学の臨床実習と臨床実習前評価の現状、臨床実習指針の収集と解析、および、海外の臨床実習における現状調査が行われた最近の調査結果(「効果的な臨床実習の導入、実施のあり方に関する調査研究」福井次矢他)を参考に、診療参加型臨床実習への移行の際の体制作りと、その際に使用される実習指針に盛り込まれる事項として有用性が高いと考えられる項目について、その考え方や文例等とともに提案した。

3.「臨床実習の実習指針」の定義

臨床実習の実習指針とは、以下の性質あるいは目的を持つ印刷物を指すものとする。

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I.診療参加型臨床実習のイメージ作りとカリキュラム
II.診療参加型臨床実習のカリキュラム作成上の要点
III.法的課題とその対応
IV.その他実習指針に含まれるもの

凡例

(見出しにつけた記号を解説)
【参考文例】 実習指針の参考文例。実例や参考文献を若干改変。
【指導にあたる医師用】 指導にあたる医師用実習指針への記載事項。
【学生用】 学生用実習指針への記載事項。
【指導にあたる医師用・学生用】 指導にあたる医師用、学生用指針双方への記載事項。
【考え方】 項目の背景、理由など。
【体制作り】 体制作りのみに関する項目。(指針への記載事項ではない)
【文例#】 巻末にまとめた実習指針の参考文例。

※ ここに示す文例は、あくまでも各大学の臨床実習指針の一部に改変を加えたものに過ぎず、各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。

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I .診療参加型臨床実習のイメージ作りとカリキュラム

診療参加型臨床実習へ移行する体制作りの一環として関係者の共通理解を得るため、診療参加型臨床実習への移行の主旨、これまでの見学型、模擬診療型の臨床実習との違い、学生と指導にあたる医師に求められる行動が何であるかなどの概説部分。

当該大学が診療参加型臨床実習へ移行する意義

【指導にあたる医師用】【考え方】

 全国の実習指針調査では、特に指導にあたる医師用の実習指針において、臨床実習をこれまでの見学型あるいは模擬診療型から、診療参加型へ移行する意義が示されている指針が多かった。診療参加型臨床実習への移行は、大学の教育システムおよび病院の診療システムの変更を伴う。特に移行初期においては、システムが変わることによる双方の現場の負担は決して少ないものではなく、移行の意義に対する理解が不充分な場合は時に苦痛や感情的反発を招き、学生教育や患者診療にも悪影響をおよぼすことが懸念される。
このような観点から、大学および病院の関係者が学生の診療参加システムを既存のものとして捉えられる様になるまでの期間は、関係者ひとりひとりが移行の意義を充分に認識するような方策のひとつとして、実習指針に診療参加型へ移行する意義を示しておくことも、体制作りの一環と考えられる。
テーマとしては、「わが大学が目指す医師像」「21世紀の社会に求められる医師像」「グローバルスタンダード」「海外のあるいはわが国の医学教育の沿革と将来」などがあげられる。(本項の必要性と内容は各大学の事情によるので例文は省略)

診療参加型臨床実習とは

【参考文例】【指導にあたる医師用・学生用】

※ ここに示す文例は、あくまでも各大学の臨床実習指針の一部に改変を加えたものに過ぎず、各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。

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1.実習のねらい

卒後には指導にあたる医師の指導のもとに医師としての第一歩を踏み出すことができるよう、医学部・医科大学教育6年間の最終段階における臨床実習では、学生は診療チームに参加し、その一員として診療業務を分担しながら医師将来どの診療科の医師になるにしても最低限必要な、以下4項目の医学知識・臨床推論法・技能・態度などの能力を実践的に身に付けることを目標とする。

(1) 情報収集(医療面接、身体診察、基本的検査、連絡・報告)
(2) 評価と診療計画の立案(教科書文献的知識と検索技法、症例提示と検討会、診療録記載)
(3) 診療計画の実施(基本的治療手技、他医療職や患者さんへの伝達、文書作成、連絡・報告)
(4) 診療・学習行動の基盤となる態度(患者さんや患者家族および他の医療職への接し方、自己の職業的能力とその限界に即した行動、助力と助言の受け入れ、自己学習への意欲)

2.臨床実習チームの教育体制

【参考文例】【指導にあたる医師用・学生用】

(1)教授を中心とした指導の責任体制を明確にする。
(2)研修医と学生の間並びに学生間で先輩が後輩を指導するような体制も重要である。
(3)指導に直接当たる指導教員を配置する。
(4)指導教員の間の調整、臨床実習全体の管理を行う総括責任教員を教授の下に配置する。(下図参照)

【考え方】
各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。
実習開始時には各診療科で実名を記載した図表などを学生や関係部署に配布する。

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3. 一日の基本的流れ(学生が行うこと)

【参考文例】【指導にあたる医師用・学生用】

※ ここに示す文例は、あくまでも各大学の臨床実習指針の一部に改変を加えたものに過ぎず、各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。

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4.診療参加型臨床実習の利点

【参考文例】

※ ここに示す文例は、あくまでも各大学の臨床実習指針の一部に改変を加えたものに過ぎず、各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。

(1)学生にとっての利点

【指導にあたる医師用・学生用】

(2)指導にあたる医師にとっての利点(特に研修医)

【指導にあたる医師用・学生用】

臨床推論法の指導を行うのに、別個に双方向授業や小グループ問題基盤型学習法を計画しなくとも、受け持ち患者さんのデータや診療方針について、学生に尋ねるだけでよい。
また、"Teaching is Learning Twice"と言われており、学生から尋ねられることや学生に教えることにより自己学習が高まる。

(3)患者さんにとっての利点

【指導にあたる医師用・学生用】

充分時間をとってベッドサイドに来てくれる学生は、話し相手として歓迎されるだけでなく、医療者との情報伝達役としても役立つ。

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5.移行の際に留意すべき点

【参考文例】

※ ここに示す文例は、あくまでも各大学の臨床実習指針の一部に改変を加えたものに過ぎず、各大学・学外実習協力病院の実状に合わせた調整を必要とする。

(1)学生が受け持ち患者さんに接するときの注意点

【指導にあたる医師用・学生用】

(2)指導にあたる医師が患者診療から離れた教育プログラムを組む時の注意点【指導にあたる医師用】

(3)指導にあたる医師が学生による診療参加について認識しておかねばならない法的側面【指導にあたる医師用・学生用】

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II .診療参加型臨床実習のカリキュラム作成上の要点

必修カリキュラムと共通カリキュラム

【考え方】【指導にあたる医師用・学生用】

必修かつ共通の学習目標の設定と実習方略、学習・指導体制評価法の整備、および実習の管理運営体制の整備について

1.必修の学習目標の設定について
医師であれば誰でも最低限必要とされる必修の学習目標と学習可能ではあるが必修ではない学習目標を明瞭に区別し、学生用と指導にあたる医師用の実習指針に記載する。(参照:「医学教育モデル・コア・カリキュラムG.臨床実習」)

2.複数の診療科で共通する必修目標の設定について
必修目標のうち複数の診療科で共通する目標については、学生が継続的に学ぶことができるよう、例えば以下のように指導法やローテーション、評価法などを調整する。

(1)症例呈示や診療録記載など、全科に共通する学習目標については「全科共通カリキュラム」を設定し、指導にあたる医師の指導法や教材、学習評価・指導体制評価の方法を共通化する、あるいは、どうしても共通化できないところは差異を学生に明示しておく。 【文例1】

(2)必修の学習目標がほとんど重なる診療科間は、学生ができるだけ一ヶ所で継続的な評価を受けながら学べるよう、診療科を選択制として配属期間を長くする。(例:「内科(あるいは外科)共通カリキュラム」)また、学生が患者さんとの良好なコミュニケーションを形成するためには、約2週間が必要とされており、良好なコミュニケーションに基づく診療態度形成などをねらいとする場合にも、より長い配属期間を設定するよう配慮が必要である。

(3)診療科選択制は採用しないが共通目標がある場合は、ローテーションで方略や評価システムが途切れる弊害を最小化するために、診療科間共通カリキュラムを設定し、指導にあたる医師の指導法や教材、学習評価・指導体制評価の方法を共通化する、あるいは、どうしても共通化できないところは差異を学生に明示しておく。(例:「内科(あるいは外科)共通カリキュラム」、「小児科・小児外科共通カリキュラム」など)

(4)学外実習協力病院における必修カリキュラム−経験すべき病態・疾患
実習指針の調査によると6割強の大学で学外臨床実習についての記載があり、中には診療参加型臨床実習への移行に際して、大学病院だけでは病床数が不足するため、学外施設に臨床実習を委託している大学もある。一方、大学病院には、高度先進医療機関として、診断や治療が困難な複雑あるいは稀な病態や、先進的な医療研究の目的のため検査治療方針が一般レベルとは異なる症例が多く集まる傾向がある。従って、高頻度の症候・疾患や救急、あるいは、一般レベルの検査治療など、臨床実習で経験すべきとされる症例を全学生が経験するためには、臨床実習の全期間を高度先進医療化した大学病院だけで行うのではなく、積極的に学外協力病院への配属を検討した方がよいとの意見もある。
従って、各大学は、大学病院および学外実習協力病院における経験可能な症例を調査し、現状で必修目標とする経験症例が不足する場合には、必要であれば大学病院の診療部門の再構成を提案するとともに、積極的に学外の協力病院への配属を検討することが望ましい。(学外施設における診療参加型臨床実習をめぐる法的側面については、本提案の別項「学外実習協力病院において診療参加型臨床実習を行うことについて」を参照のこと)

評価のあり方

【考え方】【体制作り】

臨床実習の学習目標には知識や臨床推論法だけではなく、実技や態度も含まれる。従って、評価方法として、レポート、口頭試問、ペーパーテストのみでは不充分であり、実習中の観察記録や実技試験(OSCE)などを併用し、記録と学生へのフィードバックのために評価表や各技能に沿って作成したチェックリストなどを用いるべきである。なお、実習指針の調査で9割近くの大学で評価法として記載されていたレポートについては、むしろ学生を患者さんから遠ざけ、診療参加型臨床実習のメリットを損うという意見がある。海外10大学の調査(冒頭の調査)では、診療参加型臨床実習の評価法としてレポートを用いているところは全くなく、観察記録と実技試験(OSCE)、ペーパーテストである。今後、診療参加型臨床実習への移行にあたっては、レポートに替わる他の知識評価法を用いるべきである。

例えば、米国のクリニカルクラークシップでは評価法として観察記録、実技試験の他に、医師資格試験機構(NBME)のペーパーテスト(購入して採点を委託)による知識の評価が広く行われていた。すでに実現に向けて動き出した全国大学医学部・医科大学の共用試験システムが創設されれば、質の高い知識測定のツールが国内でも入手可能となることが期待される。

 一方、学習評価者については、指導に当たる教員以外にも、行動をともにすることが多い同じチームの研修医、また、特に態度評価については、看護スタッフや学生が担当した患者さんなど医師以外の評価者を設定することも今後検討されるべきであろう。 【文例2】

実習統括部門の整備

【考え方】【体制作り】

これまでに述べたとおり、共通カリキュラムについて、指導者の指導法や評価法を調整するためには、カリキュラム評価データの集計、指導にあたる教員・研修医向けの指導法開発ワークショップやOSCE を行ったり、共同で教材の開発を行う必要がある。海外の大学では、これら評価データの集計、ワークショップやOSCE の運営、あるいは、選択制実習や学外実習の配属先の調整などを担当するカリキュラム統括部門の整備が進んでいる。わが国においても臨床実習のみならず、カリキュラム全体を統括し、これまで個別化していた各講座・診療科間の教育活動の連携を支援する部門の整備を検討する必要がある。

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III .法的課題とその対応

診療参加型臨床実習の安全性と危機管理をめぐる整理のために、法的課題について考え方、および、参考例を示す。
学生が診療業務を行うことについての法的位置付け

【考え方】【体制作り】

厚生(・労働)省健康政策(医政)局の臨床実習検討委員会(委員長:前川正群馬大学元学長)は、平成3年の最終報告の中で、医学生が下記の条件の下に医行為を行う場合には、医師法上の違法性はないといえるとしている。

※関連項目「学生による医行為の違法性が阻却されるために認識しておかねばならない点」

(1)学生に許容される医行為の水準【文例3】
上記ア)の通り、個別に詳細に決めて指針に記載しておく必要がある。

(2)患者さんへの同意の取り方【文例4】
学生が診療に参加して医行為を行うことについて説明する場合、通常、病院外来の掲示だけでは「説明した」とは認識されない。
一方、口頭で同意を得て、診療録に記載する方法も「同意取得」の方法として有効である。しかし、患者の自筆署名入りの独立した文書(同意書)を作っておくのが望ましい。

学生による正規の診療録記載と文書作成について

学生が正規の診療録へ自ら参加した診療内容を記録することは、

【文例5】

学外実習協力病院における診療参加型臨床実習

【考え方】【指導にあたる医師用】

(1)必修あるいは共通学習目標、診療参加型実習であることの詳細、評価方法、実習をめぐる危機管理上の対応方針などについて取り決める。【文例6】

(2)学生の交通費や宿泊施設などについて個別に検討する必要がある。

学生が当事者となる医療事故の予防、発生後の対応について

【考え方】【指導にあたる医師用・学生用】

1.学生に障害が起こる事故について(例:血液感染事故)【文例7】

実習担当教官等は、規則的生活を維持し、常時、心身の調子を整えるように適宜学生へ注意を与えるとともに、日頃から学生とのコミュケーションをとり、不調を訴えた際は適切に対処する。
各診療科に共通する血液等を介する感染事故等については、その防止対策および事故発生時の迅速な対処方法について指針を作成し、関係者に周知しておくことが望ましい。特に、血液等を介する感染事故を発生しやすい医行為については、感染予防のための指導を充分行うとともに、そのような医行為を学生が行うことについては、危険性等を学生に充分説明したうえで学生の同意を文書等で取得しておくことが望ましい。
実習にはいる前に、結核のツベルクリン反応検査やB型肝炎などの抗体検査とワクチン投与を実施する必要がある。その際、経費の負担と実施体制について検討する必要がある。
事故が発生した場合は、指針に従って迅速に対応するとともに、事実経過を教育管理者(委員会)等に報告し、また文書として記録保存しておくことも必要である。

2.学生の行為により患者さんに傷害が起こる事故について

【考え方】【指導にあたる医師用・学生用】

(1)指導にあたる医師の指示に基づく医行為

【参考】

(2)指導にあたる医師の指導・監督外の行動

学生が法律上の責任を問われる可能性がある。民事訴訟の結果当該事故について法律上の賠償責任が学生にあるとされた場合、学生が責任を問われる場合がある。しかし、学生が「医学生総合保障制度」(別項)に加入していれば、故意に起こした事故でない限り、「国内において、臨床実習中の学生が患者さんに対して行った行為によって、患者さんの身体、生命を害し、または財物を損壊したことにより負担する法律上の賠償責任の実額」が、保険会社より補償される。(例えば、病内を通行中の患者さんに偶然衝突して傷害を負わせた場合)【参考2】ただし、このような場合でも、実習の場を管理している病院の経営者も賠償責任を問われる可能性は残る。

(3)学外病院における臨床実習中の医療事故の対応については「取り決め」に明記しておく【文例6】

(4)学生が加入する保険について【文例9】

「学生教育研究災害傷害保険」と医学部学生を対象とする「医学生総合補償制度」がある。これらを団体保険として取り扱い、実習開始前に、任意加入を学生に勧められている。
掛金の支払いをどのように負担するか、また、未加入の学生に、加入学生と同じ範囲の医行為を許容するかどうかについては各大学において検討する必要がある。

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IV .その他実習指針に含まれるもの

【考え方】【指導にあたる医師用・学生用】

※ 配属日程表、集合場所、指導にあたる医師連絡先、学生グループ分け名簿
※ 各臨床技能の学習要領、指導要領など